第12回

ネックエントリー

ゼロ・ウェットスーツでは、以前からジップレス(ノンファスナー)のウェットスーツを売っていたんだけど、3、4年前にどこかのウェットスーツ屋がジップレスのウェットスーツに「ネックエントリー」という名称を付けて売りはじめ、その年の秋には大流行になったんだ。「ネックエントリー」という商品がバカ売れになったことで、いろいろなメーカーが「うちもネックエントリーのウェットスーツ、あります」って、売りだした。カタチはエアドームのフラップがないだけで、首回りも細くなっているんだよ。おれは、「どう考えてもこのウェットは良くないよ」って、みんなに言っていた。パソコンやスマホで「ネックエントリー」ってググると、いまでもネックエントリーのウェットスーツのECサイトや、ネックエントリーの着脱方法を解説したYouTubeのサイトが表示される。

 前にも書いたけど、ファスナーなしのウェットスーツを作るのはウェットスーツ屋の夢で、昔、おれは何回もウェットスーツの水漏れテストをしてみたんだ。で、結論として、ファスナー以外で水が入る箇所はどこなのかを考えると、首という名がつくところはすべて、足首、手首、首回りの5ヵ所から水が入ってくるわけで、ほかのところから水は入ってこない、普通はね。手首や足首はなんとかなるよ、水が入らないように締めてもね。でも首は絞めたら死ぬんだね。おれ、死にそうになったことがあるんだよ。山のようにサンプルを作っちゃ、それを風呂場へ持っていって、シャワーを浴びたり風呂に入って、首まで浸かって水が入るか入らないかテストして、じゃあ、さらに「あと1mm詰めてみよう」とか、「2mm詰めてみようかな」っていろいろ工夫してみた。それから形状も「こういうのがいいのかな」、「ああいうのがいいのかな」ってやってみて、これで間違いないだろうなって思うやつを、手からも水が入るからグローブを付けて、足もブーツを履いて、それで、首のところから着るようにしたウェットスーツを作ったことがあったんだ。水が入らないぐらいに首元を締めた試作のウェットスーツを着て、海に出てパドルをしてみると息ができなくて死にそうになるんだよ。血流ってすごいんだね!思いっきりパドルすると首の血管がパンパンにふくらんで、頭のてっぺんがキーンと、真冬の海に入ったみたいに痛くなってくるんだ。パドルしていてほんとうに死にそうになったんだ。その結果、結論に至ったのは、首から水が入るのはしょうがなくて、水が入ってこないようにするのは諦めたほうがいいんじゃないかなということ。水が入ったなりに、あとどうにかしなくちゃいけないかなって考えを変えたんだ。ゼロ・ウェットスーツだけじゃなくて、ほかのメーカーもやっていると思う、考え方としては。

 「ネックエントリー」というウェットスーツのゴムは、添加剤をいっぱい入れた新たに開発された柔らかいゴムを使っていたんだ。おれも、長年研究してきたけど、首の先ちょだけぴったり作っても、結局、肩回りをその首の太さから抜かなければならないわけだから、そういうことを考えると、かなり難しいことなんだよ。とくにこの「ネックエントリー」のウェットスーツをひとりで着たり脱いだりすることがひじょうに難しいんだ。つまり、首回りをまわしている柔らかいゴムを肩回りまで広げないと、ひとりでの着脱がスムースにいかないわけで、そうやれば作れるんだけど、首のところに、たとえば真冬用の5mmのゴムをくっつけてやると、とんでもないことになるんだよ。やっぱりおなじように首が絞まっちゃった状態なるとか、動きにくいとかさ。それじゃあ、ゴムを柔らかくした意味がぜんぜんないでしょということになる。あるとき、うちの取引先から「ネックエントリーを作らないんですか」って訊かれたから、「うちはやらないよ」って言ったんだけど、案の定、ネックエントリーは1〜2年も経たないうちに生産終了になっちゃった(現在も売っているところはあるけどね)。ネックエントリーというカテゴリーは、毎年、手を変え品を替え出てくるんだけどね。なんとかエントリーというのを考えてくるんだよ、また。

 でも、うちのエアドームは、いけてるよね。エアドームを発売したのは7〜8年前だけど、首のところをダブルで覆うタイプのウェットスーツはもう10数年作っているけど、なかなかいいよ。水が入っても、なかで処理できるような工夫をしてあるからね。

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ゼロ・ウェットスーツの最高級ノンジップ・ウェットスーツ、エアドーム。厳寒の真冬でも真価を遺憾なく発揮する一枚です。Z-1生地にはシェルターという最高級のインナー素材が使われています。ぜひ、本当の暖かさと着心地をお試しください。