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第13回

サーフィン用はパドルをするためのウェットスーツ

「じゃあ、サーフィンって何をするの?」って考えてみると、海へパドルアウトした瞬間からずっとパドリング、2時間、3時間、ずっとパドルしているわけじゃない。つまり、ウェットスーツの動きにくさを解消するには、いかにパドリングがラクなウェットスーツなのかっていうことだよね。

 

 サーフボードに乗ったときに、クソをするようなカッコしようが、突っ立って乗ろうが、ライディング中の動作なんか、ほとんど関係ないんだよ。ヒザの裏側にしわができるからといって、ヒザの裏の生地を薄くして動きやすくしましたって、宣伝しているけど、「こいつ、何やるの?」って思うんだ。バタ足しながら、テイクオフするのかよって思っちゃうよね。

 

 たしかに、足をバタバタさせながら、テイクオフするやつはいるよ、意味もなく。「屈伸運動するのかな、板の上で?」。そう考えると、サーフィンの90パーセントはパドリングなんだよね。ジェリーさんも「サーフィンの90パーセントはパドリングだ」って、ある雑誌のインタビューで言っている。

 つまり、いかにラクにパドルができるかっていうことに注目したのが、「エアドーム」なんだ。厚くて保温力のある生地なんだけど、それが裸でやるのとおなじような快適なパドルができるように設計されているわけなんだよ。

 

 「エアドーム」だけじゃなくて、ゼロのほかのウェットスーツもみんなそういう着眼点で作り上げているんだ。サーフィンで、いちばん多くの時間を費やしているポーズというのがパドルだから、「コブラ」でも、「ノーマルジップ」のウェットスーツでもぜんぶ、パドルがしやすいように作ってある。

 

 その次が、板の上に座ってセミみたいに板を押さえてじっと波を待っているポーズ。そのポーズが二番目。それを解消するために、股が広がるような工夫がされている。股が広がっていても水が入りにくい構造などもある。ダイビングみたいに、直立した状態でへそのところにしわができないようにとか、わきの下にしわができないようにとか、「そういうウェットスーツがサーフィン用の最高のウェットスーツです」と言っているウェットスーツ・メーカーがいるけど、そんな考え方は、本当のアホだと思うよ。そんなウェットスーツでサーフィンやったらすぐにぶっ壊れてしまうし、パドルはかったるいし、もつのはゴムが柔らかい3年以内だよね。

 ゴム本来の耐久性は3年なんだね、使っても使わなくても。車のタイヤだってそうだけど、「どんなに使った」とか、「ほとんど使わなかった」などと言っても、3年経つとひび割れてくるし、ゴム本来の効果も薄れてくる。

 

 でも、ゼロのウェットスーツは幸か不幸か、普通で5年、なかには10年使っているユーザーもいる。そうすると、買い替えがないのよね。ウェットスーツ屋としては、それはやばいよね。3年で壊れて、買い替えてくれないと。どこかの自動車メーカーじゃないけど、そこそこ壊れてくれないと、買い替えがないからっていって、修理部品は10年以上キープしていません。それ以降の修理はできませんから、車は買い替えてくださいと。丈夫な車でも、「もう修理はいたしません」って言わないと、自動車メーカーとしてもたないよね。

 

 でも、「もう修理はできません」なんてことを言っていると、いまは修理屋ができちゃってさ、あちこちで。ウェットスーツを作っていても儲からないからって、修理をする人たちが増えてきている。フィンを引っかけてゴムに穴が開いちゃったら、どこかで修理しなくちゃならないものね。すり減ったウェットスーツの修理に頼みにくる人がいて、「もう買い替えたら」ってアドバイスすると、「いや、まだ着られますから」って断られちゃうしね。

 

 護岸のコンクリートの上に座っているとお尻がすり減っちゃて、水が滲みてきちゃうんだけどね。夏用のウェットスーツだったら、お尻から水が入ってくるのは普通で、あまり気にしていないけど、冬用だと、ウェットスーツは水が入りにくくなっているので、水が入ってくるとすぐにわかるので、ユーザーは「穴が開いています」って言うわけよ。

 

 でもどこを見ても穴なんか開いていないんだ。よくよく見ると、やっぱりコンクリの上に座っていて、またはサーフボードの上にずっと座っているのか知らないけど、お尻のところがペタペタにへたっていて、中のスポンジがつぶれて切れた状態なんだよ。滲みてくるから、その部分を交換して修理してあげるわけ。そうするとさらに2年、使えるんだよ。ホント、ウェットスーツ屋は大変なんだよね。

 どこかのウェットスーツ屋が、「うちのサーフィン用ウェットスーツは立体裁断です」とか余計なことを言っているけど、乱暴な言い方をすると、立体裁断でもなんとか裁断でもいいから、パドルさえしやすければ、なんでもいいんだって、おれは思っている。

 

 でも、おれも、それなりに立体的にモノを考えているから、ゼロ・ウェットスーツも自然と立体になっているんだね。だからといって、「うちは立体裁断のウェットスーツです」とは言わないけどね。でもうちのウェットスーツを着た人はかならず言うよ、「パドルがラクですね」ってひと言。とくにフルスーツであればあるほど、パドルがしやすくなる。

 

 エアドームなんて、裸でやっているみたいだよ。裸でパドルするぐらい、ラクなんだよ。でもダイビングする人からすると、「それはダメでしょ。ゆるいから」ということになる。そのゆったり感もどういうダブダブ感なのかって。ボンベをしょって、水の中に潜るときにダブダブ感はまずいかもしれないけど、パドルするときの、両手を広げたときの延びに耐えられなくちゃ、やっぱりテイクオフできないもの。サーフィンはパドルが命だから、パドルができないと、流されちゃうしね。

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