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第19回

ウェットスーツの縫製について

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本縫いミシン

ジップレスのウェットスーツのカタログを紹介したブログで、ウェットスーツの縫製のことに少し触れたんだけど、今回はそのウェットスーツの縫製の話をしてみたい。じつは、ウェットスーツの縫製を語るには、ウェットスーツの成り立ちから話さなくならないロングストーリーなんだけど、今回は、柔らかくて伸びたり縮んだりするネオプレンゴム生地のウェットスーツの縫い方についてかいつまんで話してみたい。

 まずウェットスーツの縫製に使うミシンは3種類ある。一般的に洋服などの縫製などにも使う直線縫い、正式には本縫いというミシンがひとつ。それから二台目のミシンがすくい縫い用のミシン、英語ではブラインドステッチと言うんだけど、糸が生地の裏側に抜けない縫い方ができるのがすくい縫い用のミシンだ。

 

 パーツごとに裁断したゴムの生地をボンドで張り合わせ、それから合わせ面の強度を補強するためにこのすくい縫いミシンを使う。そして、3台目のミシンがオーバーロックミシン。ゼロ・ウェットスーツの工場ではこの三種類のミシンを使い分けてウェットスーツを縫製している。

 でもウェットスーツ屋によっては5種類も6種類も使っているところもある。それは何でなのかというと、たとえば、本縫いのミシンは直線しか縫わない。ゼロ・ウェットスーツでは本縫いのミシンをジグザグに縫う、ちどり縫いにも使っているんだけど、本縫いのミシンは左右に振れる縫い方もできる。本縫いのミシンは一本針、二本針、三本針と針を足していくことができるミシンなんだ。

 

 ゼロ・ウェットスーツでは一本針の本縫いのミシンしか使っていないけど、あるウェットスーツ屋では同じ縫い方をするのに二本針とか三本針のミシンを使っているところもある。そうすると、そこのウェットスーツ屋では、一本針用と二本針用、それからジグザグ用の三台のミシンが必要になってくる。それからかんぬき止め用のミシンも必要になってくる。このかんぬき止めというのは袖口の糸がほつれてこないように補強の糸止めの縫い方を言うんだけど、そのミシンも必要になってくる。

 

 ゼロ・ウェットスーツではジグザグ縫いもかんぬき止めもぜんぶ一台の本縫いのミシンで縫っているけど、それが面倒くさかったり下手くそだったりすると、2台も3台も揃えなければならなくなる。工場のスペースが広くて、資金さえあればいろいろなタイプのミシンを揃えることもできるけど、ゼロ・ウェットスーツではそんな資金もスペースもないから、必要最低限のミシンで済ませている。

 

 本縫いのミシンは、基本的にはファスナーを取り付けたり、ベルクロを取り付けたり、伸びない部分の縫製に使っている。すくい縫いのミシンでは縫えないからね。だから、一本針の本縫いミシンが必要なんだ。ジグザグ縫いは本縫いミシンを調整しながら縫うんだけど、下手くそなやつはそれができないから、ジグザグ縫いのミシンを使わなければならない。だから大きな工場にいけばいくほどミシンの種類が増えるね。ジグザグ縫いを使うときは、ウェットスーツのある部分を幅広く固定したいときや裾上げなどに使うんだ。

袖口の「かんぬき止め」。袖口の糸がほつれてこないように補強の糸止めの縫い方だ。ゼロ・ウェットスーツでは、これも本縫いのミシンでやっている

ジグザグ縫いも本縫いミシンでできる

本来、本縫いは、たとえばズボンの裾など引っ張っても絶対に伸びない縫い方で、ちどり縫い、ジグザグに縫えば生地が若干伸びる。だからウェットスーツの裾とか縁の部分を止めるときなどに使う。

 

 昔、オニールかリップカールか忘れたけど、ウェットスーツの針目をボンドでくっつけた上にジグザグで縫ってあったね。何でこんなバカなことをするんだろうと笑っちゃったけど、壊れるからしょうがないからそうしていたんだね。ブラインドステッチができるミシンがなかったか、縫える職人がいなかったせいかな?

 ミシンとして、本縫い、直線に縫えば生地が伸びないけど、同じミシンでちどり縫い(ジグザグ縫い)にすると生地は伸びるようになるわけ。それで、ウェットスーツ屋によっては、縁取りの部分をちどりで縫うとするんだけど、うまく縫えないからか?きれいに見せたくてなのか?オーバーロックミシンで縫っていたりする。

 

 オーバーロックミシンはTシャツの裾(すそ)や首回り、襟(えり)の部分など、ニット系の生地の洋服で使われる場合がいちばん多いんだけど、これを使って縫うと生地が伸びる。また、糸も伸びるナイロンの糸を使っている。それで、すくい縫いがうまくできない外国のウェットスーツ屋はオーバーロックミシンで縫っちゃうんだよ。リップカールやクィックシルバーはオーバーロックミシンで縫っちゃっている。本縫い(直線縫い)用やオーバーロック用のミシンは需要が多いので、ジューキや蛇の目、シンガーなど大手メーカーや中小のメーカーなどいろいろなミシンメーカーが製造している。

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オーバーロックミシンはTシャツの裾(すそ)や首回り、襟(えり)の部分など、ニット系の生地の洋服で使われる場合がいちばん多いんだけど、これを使って縫うと生地が伸びる。

すくい縫いミシン

ブラインドステッチ、すくい縫いは、裁断したゴムとゴムをボンドで張り合わせたあと、補強のために縫うんだけど、普通のミシンだと裏側に針が抜けちゃうけど、裏側に針が抜けないように縫うのがブラインドステッチ、すくい縫いのミシンなんだ。

 

 でも、たとえば1ミリ厚のゴムでも裏に針が通らないように縫うには技術が必要で、外国のウェットスーツメーカーの連中の多くはそんな技術はないから、ジグザグミシンで縫ったり、オーバーロックミシンで縫っている。ジグザグミシンやオーバーロックミシンで縫うと、当然、裏まで針が通っているから、そこから水が浸入してくる。

 

 今は、オーバーロックミシンで縫ってあるウェットスーツが多い。中国製もそうだね。Tシャツの袖ぐりを見ればわかるけど、糸は見えない。だから日本国外で作るウェットスーツは見たくれは水が入るようには見えないけど、じつは水が入ってしまうウェットスーツなんだよ。オーバーロックミシンで縫う場合はボンドで貼り付けていないので作業も早いけど、水が入ってくる。

 

 ゼロ・ウェットスーツでも、コブラの袖はオーバーロックミシンで縫っているんだ。理由は水が入っても、冬でも30分ほど防寒できていればというコンセプトだからなんだ。それにすくい縫いができないほどの1ミリ厚の薄いぺらぺらのスキンゴムを使っているからでもあるんだ。

 すくい縫いミシンの難しさは、生地のゴムが柔らかいから平らになってくれなくて、とくに立体的なウェットスーツになればなるほど難しい。ミシンというのは、基本、平らにして縫わなければいけないのに、平らにできなくて、引っ張るとゴム生地が薄くなっちゃうし、余ると厚くなっちゃうから、ゴムだと厚みの調整が難しいんだ。

 

 ダイヤルでゴムの厚みの設定をして縫っていくんだけど、必ずしもそうはならない。オーバーロックミシンは1時間もあればだれでも縫えるようになる。それから、本縫いのミシンは1日あればだれでも縫えるようになる。でもすくい縫いのミシンは三ヶ月やっても縫えるようにはならない。ゴムの厚みは、3ミリ厚といっても鋤(す)き具合によって3.5ミリだったり、2.5ミリだったりと変わってくるので、最終的には自分の経験値でさわりながら厚みを判断してダイヤルを調整している。

 

 たとえば、ゴムの裏側にはジャージが貼ってあり、その厚みもポリエステルとナイロンでは変わってくるし、2ミリ/3ミリの厚みの異なるウェットスーツなどいろいろあるわけで、そうすると裏側に何ミリがくるかによって縫っている途中でダイヤルを変えなければいけないし、ウェットスーツごとにダイヤルを調整しなければいけない。

 

 だから、面倒だから平らに作っているウェットスーツ屋もあるね。平らな縫製なのに、うちのウェットスーツは立体裁断ですって、バカなことを言いながらね。やはり、立体にすればするほど、すくい縫いは技術的にとても難しくなってくるよね、ミシンは平らで縫いたいわけだから。

1978年ごろ、ウェットスーツを作りはじめた当初、すくい縫い用のミシンとして買ったのが奈良ミシンというミシンメーカーだ

すくい縫いミシンも絶滅季語種の仲間入り?

工業用のミシンは日本製が世界で一番優れたメーカーだけど、最近ではほとんど作っていない。今はたぶん台湾でライセンス生産をしているみたいだよ。1978年ごろ、おれが最初にウェットスーツを作りはじめた当初、すくい縫い用のミシンとして買ったのが奈良ミシンというミシンメーカーなんだ。このウェットスーツ用のすくい縫いミシンはもともと絨毯を縫うためのミシンだったらしいね。

 

 その後、いまではウェットスーツ用のミシンとして開発されて発売されている。その当時、すくい縫い専用のミシンを買っても、ウェットスーツ用に改造しないと縫えなかったんだ、ほかのミシンもそうだけど。当時、メーカーはそのままミシンを出荷してくるので、ミシンを販売していた専門店の人がウェットスーツの縫製用に改造してくれたんだ。

 

 だから、まず人伝てに改造してくれるミシン販売店を探しだして、そこからミシンをオーダーして買って使いはじめたという苦労話もある。また、ウェットスーツの縫製の歴史をひも解いていくと、なんでブラインドステッチ、すくい縫いになったのかとか、すくい縫いミシンの前に箱ミシンというのがあったりとか、ウェットスーツも時代によりミシンが変わって、ミシンによって作り方も変わってきているんだね。その辺の話は次の機会にでも話したいと思っている。

 ウェットスーツの縫製だけにしか使わないすくい縫いミシンというのはほとんど発達していない状態にあるから、新しく開発・改良されることはほとんどないだろうね。だからこれからもいままでに製造された古いミシンを使っていくしかないのかなって思っている。サーフボードのシェイパーが使っているスキル社製のプレーナーを世界中のシェイパーが探し回っているように、すくい縫い用のミシンも段々それに似てきている。絶滅危惧種になってくるのかな。

すくい縫いのステッチをダブルジャージの表側に使ったウェットスーツ

ウェットスーツメーカーとしてラッシュのブランドを立ち上げる前に、ウェットスーツの製造をダイビング屋に委託して製造してもらっていた時期があるんだ。そのときに分かったのは、ダイビング屋さんたちはもともとダブルジャージのウェットスーツはなくて、裏がジャージで表がスキンのウェットスーツだったらしく、表側を縫うという発想がなかった。

 

 当時、サーフィン用のウェットスーツもなく、カラフルなジャージを作ることは可能だったが必要がなかった。表側のスキンのゴムが擦れて穴が開いてしまうという問題もあって、「それじゃあ、表側にもジャージを貼ったほうが良いんじゃない」ということで、カラフルなダブルジャージのサーフィン用ウェットスーツを作りはじめた。

 ウェットスーツの成り立ちを考えると、初めてネオプレンゴムのウェットスーツを作ったときはジャージは貼ってなくて、ただ接着剤で貼り合わせただけのウェットスーツだった。それで、ゴムがちぎれちゃうという問題があり、さらにダイビング用のゴムのウェットスーツは着づらいので、「それじゃあ、裏にジャージを貼ったウェットスーツを作ろう」ということになったらしい。

 

 それで、内側だから黒のジャージで良かったんだろうけど、あるとき、誰かが「値段が一緒なら、色つきのジャージでもいいんじゃない」って言い出したんだろうね。反物(たんもの)の織り方を考えると、白の糸で織って、それから染め屋にだして色をつけるという作業なんだ。だから、染める色は黒でも赤でも黄色でも値段は同じだったと思う。

 

 そのうち、誰かが「ジャージの色は黒ではなくて、ほかの色でもできるんじゃない」と言い出して、それでいろいろな色に染めたジャージが出てきた。まだダイビング用ウェットスーツの時代だ。ぼくらは、オニールのまねをしてサーフィン用のウェットスーツを作ろうとしたときに、ネオプレンゴムの生地メーカーと話をすると、いろいろな生地の見本を見せてくれる。そうすると、黒のウェットスーツだけでなくて、グリーンとか黄色、赤、ブルーなどのウェットスーツもできるんじゃないかっていう話になった。

 

 それで、うちは黒ではなくて、外側に色つきのジャージ、ダブルジャージのウェットスーツを作ろうということになって、それでダイビング屋さんに注文を出したら、ダイビング用ウェットスーツは裏を縫って、外側は縫わないんだと言われた。表・裏の両方を縫うと倍の手間がかかるわけじゃない。だから、表側を、色をつけた糸でステッチを付けたら、かっこよくなるんじゃないかって話になって、「じゃあ、糸の色を変えて表側を縫ってよ」と注文を出したんだ。こうして、ダブルジャージのウェットスーツを作るようになってから、表側のジャージにすくい縫いをするようになった。

 

 ということは、いままでは内側に入っていたステッチは、表側に入るようになったわけだ。当時はまだウェットスーツのフルオーダーがなかった時代だから、いわゆる吊るしのウェットスーツをまとめて発注するときに、このジャージ生地の場合はこの色の糸で縫ってねという感じだった。お客さんがステッチの色を指定しはじめたのはおよそ40年ぐらい前からだね。

 

 それまでは、ステッチの糸の色とかファスナーの長さを指定するようなお客さんはいなかった。初めて表のジャージにステッチをしたウェットスーツが上がってきたときには、「やったな!」という感じだったね、きれいさが全然違うもの。

 

 ゴムとゴムの貼り目、ゴムとゴムとの貼り合わせ面の糊跡が残るので、見た目によっちゃ汚いわけ。それだからというわけじゃないけど、外側を縫うということは糊のでこぼこしている部分をステッチで隠してくれるわけだよね。ウェットスーツがすごくきれいに見えたし、高そうに見える。最初かどうか分からないけど、「ダブルジャージのウェットスーツで表側しか縫わない」と言い出したのは、うちが初めてだね。

 

 よそよりも値段が高かったせいもあるけど、ウェットスーツの仕上がりがとてもきれいだったから、そうしたんだ。たぶんオニールは、まだ表側をステッチしたウェットスーツは発売していなかった。でも、股(また)の部分は表側と裏側、両方から縫っていた。ズボンのように、股の部分を真ん中で割っていたので、そうするとケツ(尻)を広げると股が裂けちゃうんだよね。

 

 うちの場合は、裏にゴムの補強テープをのり付けして補強していた。当時、ダイビング屋さんに発注していたときは、USAとかRASHとか、3種類ぐらいブランドを作っていて、それぞれワッペンをウェットスーツに縫い付けるだけでね。当時は、横須賀などワッペン屋さんがたくさんあったから。それで、ラッシュではロゴマークをワッペンでウェットスーツに縫い付けてしていた。

 

 その後、自分たちでTシャツのシルクスクリーンついでに、シルクプリントで刷っていた。でも、ウェットスーツ1枚1枚に刷るのは、労力が大変だったけど、あれはあれでカッコは良かった。それも1色刷りじゃなくて、2色、3色と、色を重ねていたから、おしゃれだった。

 話は戻るけど、ダイビング屋さんにウェットスーツを発注していたのはほんの2〜3ヶ月ぐらいだったと思う。ダイビング屋さんに作らせていても自分たちの思いどおりにはできあがってこないことがわかったから、それでかっこいい羽のマークをデザインしてラッシュを立ち上げて自分たちでウェットスーツを作りはじめたんだ。

 

 ジャック・オニールに会ったときに作り方も知らないのにミシンと生地は勢いで買ってあったから、ゴムの製造元からパレットで来ていた生地と、自分でデザインを考えたサーフィン用ウェットスーツの型紙を作って、ウェットスーツ屋さんに持っていって、縫ってもらっていた。おもしろいのは、ダイビング屋さんに行っても、ダイビング屋さんはミシンも縫うところも見せてくれないんだ。だからどんなミシンを使っているのか、知らなかった。おれが自分でウェットスーツを作ると最初から知っていたのかね?

L/S SPRING  ジップレスタイプ 55,000円

プロアマを問わず各種サーフィン大会に出場するコンペティタ−たち、または週末や休みの日があれば毎週のように海に出るサーフホリックたちなど、マグナムシリーズのウェットスーツは、そんなヘビーユーザー向けに新たに開発・デザインされたウェットスーツです。ウェットスーツのことをじゅうぶん理解しているサーファーを念頭に、通常のウェットスーツよりラフに作ってあり、それによりコストを抑え、リーズナブルな価格で提供することができました。スタイルはノーマルジッパーのウェットスーツに近いジップレスのウェットスーツで、いままでのスナイパーシリーズのウェットスーツよりも水の入りが少なくなるように設計されています。

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