文:川南 正
どこのウェットスーツ屋もそうなんだけど、たくさん生地を消費しているメーカーは別だけど、お客さんは、「黒がほしい」とか「紺がほしい」など、色のことしか言わないで、ジャージの色だけでウェットスーツを注文してくる。その状況というのは問屋にとっては有利なやり方で、ジャージの中のスポンジはなんだってよくて、表面の生地の肌触りが良いとか、ふかふかしているとかだけで、そのゴムが何年何月に作られて、いつまでほったらかされたゴムかというのもわからないまま、ウェットスーツ屋はその生地を問屋から買わされている。問屋がゴムを買ってきて剥(す)き家で剥いたゴムにジャージを貼って卸しているかもしれないわけで、それというのは、ゼロ・ウェットスーツが問屋になることだってできる。ナショナルゴムと山本科学にそれぞれスポンジを発注して、ジャージは企業秘密だから言えないけど、ある生地メーカーで織ってもらっていて、それで剥いてもらったゴムにそのジャージを貼ってほかのウェットスーツ屋に売ることだってできるということなんだ。実際に、裏起毛のジャージを貼ったスポンジを独自に開発しているからね。あれはナイロンとポリエステルの混紡の生地を織ってもらっていて、最低1ロットで500メートルある。だからいつでも問屋になれるんだよ。
どういうことかというと、うちはナイロンやポリエステルの生地はある日本の生地メーカーで織ってもらっているけど、ほかの問屋の製品はどこで織っているかわからない。韓国もあれば、中国で織っている生地もある。スポンジもそうなんだけど、韓国のスポンジも入っていれば、中国製のスポンジも入ってきている。でも問屋に入っちゃうと、どこで作ったスポンジかわからない。また、ポリエステルの生地もナイロンの生地も問屋に入っちゃうとどこの国で織った生地かわからないわけで、それを問屋から買って、「うちの生地は軽い」とか「うちの生地は品質が良いんだ」と言ってウェットスーツを売っている一流メーカーが存在しているという現実がある。おれは、RUSHを作ったときもそうだけど、ゼロ・ウェットスーツでもちゃんとメーカーと直接工場に行って話を聞いてから仕入れている。そうすることによってクオリティコントロール、ゴムに対しても品質保証になっているわけで、ゴムはナショナルゴムからしか仕入れないし、フリーダイビング用のスポンジは山本科学からしか仕入れていないんだね。ある問屋は品揃えも豊富で、色なんかも新色をどんどん出してくるし、製品としての見栄えもすごく良いんだ。だけど大事なのはスポンジなんだ。中身が大事で、みんなは見れないからね。車のタイヤと一緒で、いくら未使用のスタッドレスタイヤでも、3年経ったタイヤは危険かもよっていう話になる。ナショナルゴムは日本で最初にネオプレンゴムを発泡させてウェットスーツのゴムを生産した会社で、その老舗の高い生地をわざわざ買って、ウェットスーツを作っているんだよねというのが、ゼロ・ウェットスーツの謳(うた)い文句なんだ。それがゼロ・ウェットスーツの品質を保証しているということなんだ。
ウェットスーツを1着作るのに平均2メートル分のネオプレンゴムが必要となる。
山本科学のフリーダイビング用のネオプレンゴム。ジャージの代わりにスキンに特殊な加工がされている。
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