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ウェットスーツのパターン(型)

その1

文:川南 正


過去のZEROのウェットスーツのオーダーの状況を見ると、半分以上が既製(吊るし)のウェットスーツで、残りがオーダーメイドだった。そのさらに昔は、2割がオーダーメイドで、8割が既製のウェットスーツだった。いま、ZEROの工場では、90パーセント以上、いやそれ以上がオーダーメイドで、既製のウェットスーツは5パーセント以下、もしかしたら1パーセントも既製では作っていないかもしれない。既製のウェットスーツを作る場合は、型をひとつ作ればいくつでも同じウェットスーツが作れる。言い換えれば、袖などすべてのパーツごとにまとめて裁断できるからだ。裁断は機械でもできるしね(ZEROではやってない)。つまり、ウェットスーツを製造する過程において、型起こしがいちばん面倒くさい作業で、型(パターン)さえできていれば、あとはだれでもウェットスーツを作れる。

 しかし、ZEROのウェットスーツの作り方というのは、もともとおれの思考が変わっているのかもしれないけど、普通は洋服の体形で、各関節部分でそれぞれ曲げたりして作るというのが一般的な作り方だと思うんだけど、おれの場合は、洋服の勉強をまったくしていない人間なので、機械的なモノの考え方をしているんだ。たとえば、ひじを曲げる場合、同じ型を筋に添って膨らますことによってひじの出っ張りを作っていくんだけど、おれの場合は、直線と曲線を張り合わせることによって、つまり距離の違うものを張り合わせて膨らみを作っていく。洋服の場合、そういうのをいせ込み(平面である布に丸みをつけて立体的にする技法)って言うらしいんだけど、洋服の生地の場合、当然長さがあわなくなるから、そこに皺(しわ)を作ることによって、膨らみを作る方法なんだ。おれはそのことをあとで教えてもらったんだけどね。ゴムの場合は延びたり縮んだりするのでそんな必要性はなくて、皺を作らずに長いものと短いものを張り合わせて、形を曲げたりする。ZEROのウェットスーツはそういうモノの作り方をしているところが何ヵ所かある。

 おもしろい話が合って、ZEROのウェットスーツをほかのメーカーが入手して、ばらして型をとろうとしたんだけど、同じ型にならなかったらしい。おれも、修理で戻ってきたウェットスーツをばらしてみたんだけど、「何でこんなカタチになっているんだ?」って思ったね。ウェットスーツを作ってすぐにばらすと、元のカタチになるんだけど、時間が経つと、ゴムだから元のカタチには戻らないんだね。縮んじゃったところは縮んだままになっているし、伸びているところは伸びっぱなしになっているからね。既製だったら型があるから簡単なんだけど、オーダーメイドだったら、どこで伸ばしたらいいのか、どこで縮めたらいいのかがとても難しい。一応、ZEROはさまざまなデータを持っているので、生地をカッティングする人間が物差しを使ってどこを何センチ伸ばすとか、何センチ縮めるとか、頭の中に蓄積したデータを駆使して決めている。たとえば、型には外側の線と内側の線があって、外側の線をどんどん伸ばしていくと、反比例して内側の線はどんどん短くなる。どんどん変なカタチになるんだ。それをどうやって調整するのかというのが、オーダーメイドのウェットスーツを作るときのパターンナーの技術なんだね。

 元の型を起こすときは、既製のサイズやそれ以外のサイズでいくつかの型を起こすんだけど、そのあと、オーダーが入ったウェットスーツの計ってきたサイズをそのパタンナーが型を伸ばしたり縮めたりして裁断する。で、洋服屋さんは型紙用のハトロン紙に鉛筆で線を書いたり消したり修正しながら型紙を作り、そのあとに生地を型紙に沿って裁断するんだけど、ZEROの場合は、作ってある型紙をゴム生地にあてて、オーダーメイドのサイズに合わせて伸ばしたり縮めたりして裁断して、ウェットスーツを作る。たぶん、そこのところがよそのメーカーとZEROでは違う。また、ZEROで修業していたやつは、たぶんほかのメーカーに移っても、ZEROと同じやり方でやっているんだと思う。でも、それは、意外と難しい。相手がゴムで、伸びたり縮んだりするからね。

型起こしができてしまえば、あとはゴム生地を裁断して、縫製するという単純作業が待っている。ゴム生地の裁断に欠かせないハサミは、定期的に刀研ぎの職人に頼んで研いでもらっている。

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