文:川南正
ウェットスーツの保温は、温かさはゴムの厚みで決まるわけだから、5ミリのウェットスーツが経年で縮むとしても厚みは変わらないんだと思う。経年とともにサイズは小さく縮んでいくだけで、ゴム厚が薄くなっていくわけではないんだ。でも経年で縮んだウェットスーツを着ると、ゴムは体に合わせて伸びるわけだから、ある意味、ゴム厚が薄くなるわけだよね。だから、体感的に古くなったウェットスーツは保温力が落ちるというのはありうることだよね。たとえば、同じメーカーの靴下があって、1年穿いた靴下と新しくおろした靴下だと、暖かさがちがうじゃない。そんなにボロボロになっているわけでもないし、生地がぺらぺらに薄くなっているわけでもないのに、新しい靴下のほうが暖かい。ウェットスーツのジャージも古くなるとすれて薄くなってくるし、とくに起毛タイプのジャージはこすれて起毛がなくなるから、その分、寒く感じるということもあるよね。うちのでもよそのメーカーのやつでも、起毛がなくなったジャージはたくさん見ているから。
経年でゴムが硬くなることによって伸縮性がなくなるから、古いウェットスーツは動きづらくなるというのも事実だよね。古いウェットスーツはゴムが硬化して動きづらくなるのが一般的な現象だけど、逆にべろべろにゴムが伸びてくるケースもある。毎日のようにウェットスーツを着ているやつがいるんだけど、彼が着ているウェットスーツはべろべろに伸びてくるんだよね。ゴムの組織が壊れてくるんじゃないかと思うんだけどさ。ゴムは全部そうなんだけど、ネオプレンゴムもシリコンやオイルに浸けておくと溶けてくるんだよね。べろべろと薄くなって伸びてくる。古くなったウェットスーツは硬くなるとは言えるけど、例外的に、いつも使っているとゴムを引っ張ったりしているので、伸びてくるんだよね。輪ゴムもそうじゃない。輪ゴムも使わないで古くなると、引っ張るとプッツンと切れるじゃない。でも、いつも使っている輪ゴムはべろべろと伸びて、戻らなくなる。それと同じようなことがウェットスーツにも起きるから、一概に古いゴムが硬くなるとは限らないことなんだ。だから、ウェットスーツのユーザーにそのことを丁寧に話さないと理解してもらえない部分がある。「ウェットスーツは古くなると縮んで硬くなりますよ」というのは、一般的な説明だけど、例外的には、「毎日のように着ているとウェットスーツはそのうちに伸びてぶつぶつと切れていきますよ」ということも言わないといけない。また、ウェットスーツを使わずに放置していると、まれにゴムの表面がべとべとしてくるケースがあるんだけど、それは、ゴムに含まれている油分が染み出してきて、それでべとべとになるんだと思うんだ。ゴムの表面にべとべとと浮き出てくるという現象は、メーカーによってゴムに混ぜ込んでいる材料によって違いがあると思うんだけど、「何が?」というのは、おれにはよくわからないんだ。メーカーもそのことをはっきりとは言わない、なにを入れているとは。そういうケースはよくあるよ。1年ぐらいほったらかしにしていると、空気にさらされている部分はべたべたにはならないんだけど、ゴムとゴムを重ねておくと、べとべとになってくることがある。ゴムそのものの性質なんだろうね。ゴム自体に油分が含んでいるから、経年によって表面にそれがしみ出てきてしまうということじゃないかなって、おれは想像するんだけど。

8年ほど経ったゼロのウェットスーツ。ロゴも薄れているけど、こうなると修理は難しい。
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