文:川南 正
前回のブログで、エアドームのコンセプトはパドリングがしやすいウェットスーツだと書いたが、それとは意見を異にする記事を見つけたので、今回はその話を書こう。数年前、ある日本のサーフィン専門誌に次のような記事が掲載されていた。それは日本のウェットスーツメーカーを取材した記事で、論点は3D画像で収集したデータを元にマーベリックスのビッグウェーバーにぴったりと合うウェットスーツを作り、「将来は、こういうのが最高のウェットスーツだ」というようなものだった。そのスタジオで撮影した3Dデータというのは、その写真も掲載されていたが、サーファーがライディングしているようなポーズを元に撮影し、計測したものだった。
おれに言わせると、それはとんでもない間違いなんだね。なぜかというと、まずそのモデルとして計測した男の波乗りというのは、ジェットスキーで沖のポイントまで連れていってもらって、波に乗るときもジェットスキーで引っ張ってもらって、テイクオフするということなんだ。彼はパドルで沖に行ったわけでもないしね。それで、彼の体形を3Dで撮ったというのはどういうことかというと、中腰でライディングしているかっこうなんだね、波に乗っているようなかっこだよ。それは、かっこはいいかもしれないけど、普通のサーファーがそうやって3Dで採寸して作ったピッチピチのウェットスーツを着て沖に向かってパドルしていって、自力でその波に乗ることになったら、沖に着いたころには疲れちゃうんじゃないのかと、おれは思っちゃう。筋肉はパンパンに張ってくるしさ。一般的なウェットスーツの作り方とはちょっと違うよねって、もともとの考え方が。サーフィン用のウェットスーツの考え方が間違っているんじゃないのって思っちゃう。
そうではなくて、板の上で腹ばいになっているサーファーの筋肉や体の動きを3Dでスキャンして、採寸して作ったウェットスーツが楽なウェットスーツだという記事を書いてくれるんだったらいいけど、ジェットスキーで沖へ行って、テイクオフするときも引っ張ってもらってビッグウェーブに乗るようなやつが、世の中に何人いるのって。そんなサーファーはなかなかいないよ。それをサーフィン専門誌で、「将来のウェットスーツを見据えて、こういうのが最高です」と書いてあること自体、ウェットスーツのことをちゃんと理解しているのかなって思ったんだ。そういう記事を書くこと自体、サーフィンをやってないからじゃないのと思っちゃう。きれいな写真を載せて、「サーファーはこうあるべきだとか、これが最高のサーファーだ」みたいな謳い文句でいくと、やっぱり一般の人は、その記事が正しいという誤解を招く。だから、どれがホンモノのサーファーで、どれがホンモノではないサーファーかという区別は別として、最適なサーフィン用のウェットスーツを作るうえで、サーファーというのはどういう動きが一番多いのか、どれが一番必要としているのかということをよく考える必要があるんじゃないの。
「サーフィンの90パーセントはパドリング」というジェリー(・ロペス)さんは、海に入ると5時間ほどサーフィンを楽しむが、そんな彼のサーフィンライフを長年支えているのはゼロのウェットスーツだ。そして、ジョーズのショアブレイクからパドルアウトする藤村篤もまたゼロのウェットスーツを愛用している
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