文:川南正
フリーダイビングの福田朋夏さんがZEROのウェットスーツを着るきっかけとなったのは、鎌倉の知人から紹介された沖縄のショップからの電話だった。当時、ZEROとは取引がないゴム会社の山本化学が福田朋夏さんのスポンサードをしていて、その山本化学は、たしか10年以上前に水の抵抗が少なくなるスイムウエアを開発した化学製品メーカーで、そこのゴムを使って彼女のウェットスーツを作ってくれるウェットスーツ・メーカーを探しているという話だった。それからすぐに、当時、福田さんが所属していたプロダクションから「彼女のウェットスーツを作ってくれないか」という依頼の電話がかかってきた。でもそのとき、おれは、「ダイビングのウェットスーツは専門外だから、作れない」って、断ったんだ。だって、ダイバーたちは、わきの下にしわができるウェットスーツを嫌がるからね。なんでわきの下にしわができるかというと、サーファーはパドリングをするから腕を回す肩と腕の付け根あたりが少しルーズにしておくと、パドリングがしやすいんだ。でも、ダイバーは海の中ではあまり腕を振りまわしたり激しい運動をしないので、水が入りにくい、ぴったりとしたウェットスーツをほしがるわけで、だから、そんな理由で一度は断ったんだ。それに、おれはフリーダイビングとダイビングの違いすらわかっていなかったからね。

福田朋夏さんは沖縄に住んでいて、まわりにサーファーもいるのでZEROのウェットスーツを知っていたらしく、再度彼女のマネージャーからウェットスーツを作ってほしいと依頼されたんだ。それで、彼女のマネージャーにも「ZEROはサーフィン用のウェットスーツを作る会社で、フリーダイビング用のウェットスーツは専門外だから、引き受ける自信がない」って言ったんだけど、それでもということで、しぶしぶ作ることにしたんだ。山本化学はウェットスーツのゴムに銀色とか黒色の塗料を塗ったトライアスロンやフリーダイビング用のゴムなども製造していて、その生地を使うことによって水の抵抗を極力抑えたウェットスーツができるんだ。例のスイムウエアもあまりにも記録が伸びてしまったので、使用禁止になったぐらいだから、フリーダイビング用としてもいいんだろうね。まあ、作ってはみたものの、当然合うわけはないよ。思いっきり考え方を変えて作り直したんだ、なんとか使えそうなやつを。自分では着ないから良いのか悪いのかまったくわからないまま、できたウェットスーツを彼女に送ってみた。
福田朋夏さんがZEROのウェットスーツを着てから、彼女の記録は80メートルから100メートルに、20メートルほど伸びたらしいんだけど、彼女がフリーダイビングをする姿を見て、おれはフリーダイビングとダイビングの違いがわかったんだ。彼女は深海に向かって潜るときに両手を真っすぐ頭の前につき出したスタイルで潜っていくんだ。つまり、腕グリに少し余裕がないと、真っすぐに腕をつき出せない。また、ダイビングと違ってフリーダイビングは運動量が多いこともわかったんだ。ある意味、サーフィンと似たところもあるんだね。ウェットスーツを作っていると、いろいろ勉強になるよ。

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