文:川南 正
ずいぶん前から、お客さんから時々訊かれることがある。「何か新しい製品は出ますかね?」というような質問をしてくる人がいる。われわれメーカーは、ウェットスーツとしての商品開発とか改良というのは常日頃からやっていて、ちょっとずつ新しいものに変化していっているんだ。だから、モデルチェンジをしたときには、そのウェットスーツは仕上がっている状態。で、常に製品の中にフィードバックしているから、お客さんには気付かれないうちに、悪いところをどんどん直し、改善していっているというのを、ゼロでは繰り返しやっている。一般的に、「何か良い商品がありますか?」って訊かれる場合は、ほとんどの場合が、たとえば新しいジャージが出たとか、新しいスポンジが出たというような素材の場合、または新しいファスナーが出たときなどいろいろある。前にもあったけど、ソフトファスナーやコイルファスナーなど、ちょこちょこいろいろとあるんだけど、発売された商品はほとんどが一シーズン、二シーズンぐらいで消えてなくなっていっちゃう。それで、見えないカタチで改良されたものというのは、みんなに気付かれないうちに新しいものに替わっていっている。たとえば、ベルクロなどもそうなんだけど、初期のベルクロは弱くて、付けてもすぐにペロペロはがれてしまっていた。しかたなくダブルで折り返しで留めたりといった工夫をしながら直していた。でも、見た目には分からないけど実際には強度が全然違っていて、一度くっつけると二度とはがれないぐらい強力なベルクロに替わりつつあって、ゼロの場合、どんどん新しいタイプのベルクロを付けている。お客さんから見ると、「20年も30年も前のベルクロじゃないの」と思うかもしれないけど、見たくれが同じでもまったく違う物なんだ。それを、なんとかベルクロとか、名前が付いているのかというと、なにも付いていないんだよね。品番しか付いてない。新しいベルクロの品番には桁数がひとつ多く付いていたり、品番の前に英文字が付いているぐらいなんだ。欠点があれば、ほかの商品を探したりメーカーに問い合わせをしたりするから、そうすると、見た目は分からないけど新しい製品になっている。
今回、生産中止というお知らせがきたナショナルゴムのジャージは非常に柔らかくて軽いスポンジなんだけど、お客さんに見せても分からない。触って比較してもらえば「こちらのほうが良いですね」というのが分かるんだけど、見た目ではなかなか分かりづらい。それをゼロとしては、今回、廃番になる「スーパーDT」には前から注目していて、製品化していたんだ。そうしているうちにメーカーとしては、「非常に作りづらい製品だから、止めます」と言い始めた。だから、良いものであっても、お客さんもまた良いものだと思ったとしても、メーカーとしては、それが実際に製品化するにはばらつきがあったりしても困るし、今回のナショナルゴムの場合、製品にばらつきがあったということで、止めようとしているわけなんだよね。実際、ナショナルゴムの生産中止のお知らせには「漉(す)き貼り作業の難易度が高いこともあり、品質管理上も今後の維持が困難であると判断せざるを得ませんでした」と書いてあるとおりなんだろうね。いちいちソフトジップを使ってますとか、なになにエントリーにしてますなどと告知している世間の商品というのはだいたいなくなっていっちゃう。たとえば、ネックエントリーもそうだけど、おれは前からファスナーなしがいちばん良いと公言しているんだから、ネックエントリーは確かに良いのは良いんだけど、ネックエントリーで売っていたやつは1、2年で商品がなくなっちゃうんだよね。ネックエントリーも、どんどん改善していってより良い商品をつくればいいのに、要するにお客さんをだましているようなところもあるよね。ネックエントリーという名前を付けて発売すれば、お客さんは飛びついて買うけれど、1、2年も経つと消えてなくなっちゃっているんだ。世間の商品というのはそういうものなのかって、おれは疑いたくなるけど、最初、「これは良いよね」と製品化するけど、継続的に改良されて、また改良されて残っていてくれればいいのに、いつのまにか消えてなくなってしまう。ネックエントリーもどきは作っているんだろうけど、名前を変えて新しい商品として発売すると、お客さんが喜ぶ。良いものというのはずっと同じものとして生き続けていて、どうしようもないものというのは逆に名前だけで、あっという間に消えてなくなっている。ゼロ・ウェットスーツのエアドームはもう発売してから15年が経っているけど、見えないところで日々改良を施しているんだ。お客さんには見た目は分からないけど、ゼロとしては「ずいぶん手を入れているな」という思いがある。だからお客さんから「何か新しいの、ないの?」と訊かれても、「エアドームしかありません」と答えているよ。
SUPER SERIES(スーパー・シリーズ): AIR DOME(エアドーム)
ゼロ・ウェットスーツが販売するフルスーツの最上位ランクがエアドーム。フルスーツの動きの悪さを解消するため上半身を大きめに作ってある。着やすいのとパドリング時の動きやすさが特徴で、首のところがダブル(Neck Rest/ネック・レスト。またはネック・オーバーオール)になっていて、外側のフラップはベルクロで留めるようになっている。ジップレス、ノンジップというコンセプトでこのウェットスーツができあがった。
価格(消費税抜き)
5/3mm Extend ¥130,000
5/3mm Z-1 ¥170,000
All 3mm Extend ¥110,000
All 3mm Z-1 ¥150,000
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