文:川南正
2歳違いの弟の活は湘南学園を卒業して、推薦入学で拓殖大学に入ったんだ。それで入学式のときに拓大の門を入ったところでゲタを履いた応援団の連中に髪の毛を引っ張られて、「髪の毛が長くて、気に入らなねえ」って脅かされたらしいんだ。活だけじゃないんだよ、湘南学園から何人もサーファーが推薦入学で拓大に入っていたんだけど、そいつら全員、応援団の連中に脅かされたらしいんだ。活は「あんなところに行ってられない」って、大学にはほとんど行ってなかったんだが、夏前に彼女の家族がグアムに住んでいたので、エアチケットを買って行ったのよ。で、アメリカのビザは3カ月じゃない。3カ月を過ぎてもサーフィンして遊んでたもんだから、強制送還になっちゃってさ。彼女のおやじは軍属で、裁判官かなんかやっていたらしいので、活は捕まっちゃたけど、なんのおとがめもなく強制送還。入ってはいけない軍のエリアで波乗りをしていて、海から上がったところで捕まっちゃったらしいんだ。それで、活は、3カ月しかいられないということがわかったんで、秋にグアム大学の願書を出して、入学したんだ。いまだに卒業はしてないけどね。そのころ、サンフランシスコのトア・ジョンソンっていう活の友だち家族が54フィートのでかいケッチ(2本マストの大型ヨット)で太平洋を渡って、とある南の島から戻るときにグアムに寄って、グアムから日本に上がってくるという航海のときに、活はその船に乗せてもらって日本に向かったんだけど、小笠原で「もう耐えられない」って船を降りて、小笠原からは定期連絡船で帰ってきたんだよ。その話は活に聞くとおもしろいよ。でも活の話は半分以下にしておかないと、危ないよ。おれが教えてやった話を自分の話のようにしてしゃべるからさ。それで兄弟げんかになるんだよ。むかしから、こいつはしょうがないなって思っていてさ。子どものころに食卓で飯を食いながら家族で話しているじゃない。活はおかしい話をするんだよ。みんなでワーって笑ってさ。でもおれは「ちょっと待てよ、それは前におれが活に教えた話じゃないかな」って思っているのに、活の話はさらに尾ひれがついておもしろい話になっているんだよ。おれが話すとぜんぜんおもしろくないんだけど、活が話すと尾ひれがついてメチャクチャおもしろい話になるんだよ。「しょうがねえな」っていつも思うんだけど、アタマにきたときだけだよ、活に物を投げつけてケンカになるのは。
右端が弟の活、そして右から3人目がおれ。
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