ウェットスーツを科学する。
- zerowetsuits
- 22 時間前
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第一回 ウエットスーツの「保温性」は何で決まるのか。
文:川南 正
50年以上素材と向き合ってきて分かったこと。
ウエットスーツというと、ひとつのカテゴリーに聞こえますが、実際には用途によって求められる性能が大きく異なります。漁師用、ダイビング用、サーフィン用、ウインドサーフィン用、そしてトライアスロン用。同じ「海で使う装備」であっても、動き方も環境も体の状態もまったく違います。
今回のテーマは、その中でもサーフィン用ウエットスーツの保温性能について。長年この業界に携わり、研究機関とも協力してきた立場から、「何が本当に暖かさを左右するのか」をお話しします。
■ 研究で明らかになったこと
― ウエットスーツの保温は「厚み」で決まる
今から十数年前、実践女子大学の鎌田教授の研究グループと共に、さまざまなウエットスーツ生地を対象にした比較実験を行いました。当時は、遠赤外線や熱反射、中空繊維など「暖かくなる加工」が次々と登場し、各社が競うように新素材を開発していた時代です。
しかし、約3年間の検証の結果、シンプルな結論が導かれました。
ウエットスーツの保温性能は、ほぼ “厚み” で決まる。
厚い生地ほど暖かく、薄い生地ほど冷たい。加工や素材の特性による差は、良くても数パーセントほど。「劇的に暖かくなる魔法の素材」は、少なくとも実験データの上では存在しませんでした。
これは登山の世界でもよく知られる原理で、寒冷環境では結局“層と厚み”が体温維持に直結します。ウエットスーツも同じです。
■ ダイビングとサーフィンでは条件が違う
ここからが重要なのですが、「厚ければいい」というだけでは、サーフィン用としては不十分です。
ダイビングは水中で比較的動きが少なく、一度入った水は体の周りで安定しています。しかしサーフィンは沈み、浮き、パドルし、立ち上がり、波に巻かれる。動きが大きいスポーツです。
そのため、スーツ内部の水が常に動くことになります。この「水の移動」が、体温を奪う最大の要因です。
■ サーフィンでは「水を止める」より「水と上手く付き合う」
理屈だけを考えれば、首や手首、足首を強く締めて水が入らないようにすれば良い、と考えがちです。しかしサーフィンは全身を使うスポーツ。運動し体温が上がると血管が膨張し、きつい締め付けは強烈な圧迫になります。
場合によっては危険です。
したがって、
サーフィンでは「水が入らないこと」を目的にしてはいけない。水が入っても、それをどのように扱い、中に溜めないことが大切。
これが実践に基づいた考え方です。
■ 水抜けの速さが“体感温度”を左右する
― シェルター素材が示した差
先ほどの研究の中で、ひとつ興味深い結果がありました。水をたっぷり含んだウェットスーツ生地を縦に吊るし、どれだけ早く水が抜けるかを測定したところ、一種類だけ極端に軽くなるスピードの速い生地があったのです。
それが、私たちが採用している**「シェルター素材」です。結果として、他の素材より約30%以上早く水が抜ける**ことが分かりました。
理由として考えられるのは以下の構造です。
中面:水を吸いやすいナイロン
体と接触している面:水を弾き空気を含む中空ポリエステル繊維
肌と密着しすぎない細かな凹凸構造
これらによって、入った水が早く下へ落ち、そのあとスーツ内部に空気層が戻る。空気は最高の断熱材です。
結果、一つ得られた答えはシェルター生地の使い方によって体感温度を大きく左右させることが判明しました。


■ デザインより、身体に合った設計を
最近は、柄やパネルラインなど見た目を重視したウエットが増えています。しかし、人間は肩や腰など冷えやすい部位があり、そこに放射冷却性の高いジャージ素材を使うと、寒さを感じやすくなります。
機能がデザインに負けてしまっては、海の中で苦労するのはユーザーです。
■ 結論
― ウエットスーツの保温は「理屈」で決まる
最後に、改めて保温性能の公式をまとめておきます。
保温性 = 厚み × 水抜け性能 × 空気層保持
この3つが揃えば、宣伝文句や一時の流行に左右されず、確かな暖かさを得られます。
私たちはこの考え方に基づいて、それ以降20年以上素材選びと設計を続けています。そしてその結論は、海の中で使うほど、より確かなものになってきました。
■おわりに
もしあなたが冬のサーフィンで寒さに悩んでいるなら、「厚み」と「水抜け」と「空気」を基準に、ウエットスーツを選んでみてください。
道具は、正しい理解の上で選べば、必ず応えてくれます。

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